疾患一言メモ
直腸癌の手術
直腸の働き
直腸は肛門からS状結腸までの大腸の末端部分です。栄養分の消化吸収機能はありません。この部位に便が到達すると便意を感じ、肛門括約筋とともに複雑な排便機能を作動します。
直腸の隣接臓器
後面には仙骨が接しています。前面には男性は前立腺・精嚢・膀胱があり、女性には膣・子宮があります。また腎臓から膀胱に至る尿管や泌尿生殖機能に関係する神経・血管が近くを通っています。
直腸癌の手術
直腸癌の手術は局所切除と、リンパ節郭清を伴う腸切除(もしくは切断)の2つに分かれます。後者は自然肛門を温存できる直腸切除術と、自然肛門は温存するが永久人工肛門を造設するハルトマン手術、自然肛門も切除し永久人工肛門を造設する直腸切断術(マイルス手術)に分かれます。
1)局所切除術(経肛門、経括約筋、経仙骨)
早期の直腸癌でリンパ節転移がないと見込まれ、内視鏡切除が困難な症例に施行されます。上記のいずれか3方向から腫瘍を切除する方法です。この場合一般的にリンパ節郭清はしません。
2)直腸切除術(前方切除術)
前方とは腹部を切開し直腸を操作する意味です。腫瘍縁から肛門までの距離があり、肛門機能を充分に残しても肛門側に病変が遺残しないと見込まれる症例に施行します。
3)ハルトマン手術
腫瘍縁から肛門まで切除に充分な距離があるが、新しく腸管をつなぎ合わせると排便機能が不十分になる場合(高齢者)、またはつなぎ合わせるのが危険な場合(緊急手術・消化管穿孔等)に施行されます。大腸の末端は人工肛門として左下腹部に造設されます(永久人工肛門)。自然肛門は温存されますが、盲端となり閉鎖してあります。
4)直腸切断術
腫瘍縁と肛門との距離が近い場合に、腫瘍を肛門と一塊にして切除します。この場合は腸をつなぐことはありません(切断術)。大腸の末端は人工肛門として左下腹部に造設されます(永久人工肛門)。
5)腹腔鏡下手術
従来の開腹手術(臍上部から恥骨上縁に至る広域切開)に代わり、ビデオカメラを小孔より挿入し、小切開で手術をする方法が開発されました。当院でも早期癌を主な対象として導入されています。術創が縮小されるため術後の疼痛が少なく、術後回復が早いという利点があります。また術後癒着による腸閉塞の発症が少ないと言われています。他方、従来の開腹手術のように直接手で触れる手術ではなく、ビデオ映像を介した遠隔操作のため技術的には高度で不確実な要素が発生する可能性があります。また、開腹手術では起こり得ない炭酸ガス塞栓や気胸・他臓器の損傷といった偶発的な合併症が報告されています。このため腹腔鏡予定が手術中に開腹術式に変更されることがあります。進行癌に対する治療効果については現時点では一定の見解がありません。
※リンパ節郭清とは
癌の転移形式のひとつにリンパ管を介したリンパ節転移があります。通常は原発巣の近くのリンパ節に転移し、やがて順番に離れたリンパ節に転移していきます。リンパ節郭清は癌を含め周囲のリンパ節を切除摘出し局所再発を予防する目的で施行されます。郭清は系統的に決められた範囲に施行されます。直腸癌(大腸癌)の手術成績はこのリンパ郭清の完成度に強く依存します。大腸の専門医と他の消化器外科医の手術成績の違いは、この郭清術と正確な剥離層の維持によるものです。
手術の合併症
縫合不全
腸管を切除した後、体内に残された腸管をつなぎ直す必要があります。この腸管のつなぎ目がうまく連続しない場合を縫合不全と呼び、およそ5%前後の頻度で発症します。縫合不全が生じると、腸内容はこのつなぎ目から腸管外に漏れてしまい、腹膜炎を発症します。通常7日前後に発症し、原因は血流不足により腸管の再生が不完全な場合がほとんどです。縫合不全が生じた場合は、禁食期間を延ばし自然治癒を待つか、再手術(緊急)により人工肛門を造設します。いずれかの判断は担当医に任せていただきます。この場合の人工肛門は、通常数ヶ月から1年後に再度入院し手術することで取り除くことが可能です(一時的人工肛門)。
術後腸閉塞
術後の腸管の癒着や麻痺により、腸内容の流れが悪くなる場合があります。吐き気・嘔吐・腹痛・腹満感・食事摂取不能などの症状が出現します。多くは禁食と経鼻チューブでの消化液の持続吸引により1週間前後で改善します。改善の見込みのない場合は再手術により癒着の解除が必要となります。
排尿機能障害
直腸周囲を走る排尿に関係する神経・血管を合併切除・損傷した場合、排尿障害・排尿困難が出現することがあります。通常直腸の切除だけでは起こりませんが、骨盤内のリンパ節を郭清(リンパ節転移による再発を防ぐためにリンパ節を切除する)した場合に後遺症・合併症として出現します。神経・血管切除の必要がない症例では可能な限りこの神経を残しますが(自律神経温存手術)、温存により再発が見込まれる場合は切除します。
性機能障害
排尿機能と同様に性機能に関係する神経・血管を合併切除・損傷した場合、勃起不能・射精不能等の障害が生じます。自律神経温存術については上記と同じです。
骨盤死腔炎(マイルス手術・ハルトマン手術)
骨盤内の本来直腸があった場所に空洞ができ、ここに細菌感染が生じた場合に起こります。マイルス手術であれば会陰創の開放、ハルトマン手術であれば残存直腸盲端の開放により通常保存治療が可能です。ただし完治までに数ヶ月を要します。
その他
術後出血、術後肺炎、術創感染、肺塞栓症、血栓症などがあります。
切除不能の場合
腫瘍部位をまたぐバイパス手術、腫瘍部位より口側での人工肛門造設などがあります。
その他の治療法
放射線治療、化学療法(抗癌剤治療)、免疫療法などがあり組み合わせて施行されることがあります。但しいずれの治療も、治癒手術可能であれば手術を凌駕する成績を出したものは確認されていません。
直腸癌治療成績の目安(治癒手術:癌が取り切れた場合の5年生存率)
DukesA(癌が大腸壁内にとどまるもの=Stage0+Ⅰ) 90%
DukesB(癌が大腸壁を貫くがリンパ節の転移はないもの=StageⅡ) 75%
DukesC(リンパ節の転移があるもの=StageⅢ) 55%
DukesD(他の臓器に転移のあるもの=StageⅣ) 25%
※直腸癌の成績は、結腸癌や大腸癌(直腸癌と結腸癌を合わせたもの)の成績より低くなります。
手術後の経過と治療
絶食期間
状態によりますが、手術翌日に水分摂取となります。その後に流動食が開始となります。以後は一日毎に食事の種類がアップします。この間は点滴での栄養を補充します。退院までに必ずしも御飯を食べる必要はなく、お粥のまま退院する事も可能です。
創処置
およそ1週間で抜糸となります。創が感染した場合は2週間ほどガーゼの処置が必要となります。ドレーン(腹腔に留置したチューブ)はおよそ10日ぐらいで抜去されます。
膀胱留置チューブ
通常翌日に抜去されます。歩行が困難な場合・尿量の正確な測定が必要な場合、自律神経を切除した場合は留置を延長します。
経鼻胃管
通常翌日抜去されます。術前腸閉塞があった場合・術後の排液の量が多い場合は留置を延期します。
離床と歩行
大きな合併症のない場合、翌日からの歩行が可能です。ただし創痛の強い場合などは延期することがあります。高齢者・手術侵襲の大きな場合・術後の状態が不安定な場合は延期します。
疼痛管理
通常、手術室で留置される持続硬膜外麻酔チューブでの疼痛管理で自制可能です。疼痛のコントロールが不十分な場合、点滴・坐薬による鎮痛剤が追加されます。ただし全くの無痛状態は薬物の大量投与を必要とし、術後回復や呼吸状態に支障を来すことから実現されません。
術後補助療法
抗癌剤・放射線治療など入院中に必要と認められた場合に施行します。施行前には本人と御家族に説明があります。必要性はガイドラインに沿った適応となります。
結腸癌の手術
結腸の働き
大腸(結腸および直腸)は、栄養分を吸収された後の食物残渣から水分や塩分を再吸収し固形便を作ります。胃や小腸のような栄養分の消化吸収機能はありません。
結腸の解剖
結腸は右下腹部で盲腸から始まり、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸と続き直腸につながります。人の背丈ほどの長さの管腔臓器です。
結腸切除術
癌・腫瘍・潰瘍・ポリープ・狭窄などの病変ができて、内科的な治療では治癒できない場合は外科的にこれを切除します。切除範囲は病変の進行度により異なりますが、概ね「大腸取扱い規約」で決まっています。アプローチの方法に開腹(従来の術式)と腹腔鏡の2通りの方法があります。開腹手術は術野が広く操作が直接的で安定した術式です。歴史も長く一般的手術と考えられます。腹腔鏡手術は切開の範囲が小さくて済み、術後疼痛が少なく回復からの立ち直りがよい新しい手術です。他方、操作が遠隔操作となるため技術的な難易度が上がり不確実な要素が発生する場合があります。
また通常の開腹手術では少ない炭酸ガス血栓や血管損傷などの合併症が報告されています。進行癌に対する治療成績を比較した場合、両術式の差は現時点では一定の見解がありません。また、症例によっては腹腔鏡手術を予定しても術中に開腹手術に変更する場合があります。
手術合併症
縫合不全
腸管を切除した後、体内に残された腸管をつなぎ直す必要があります。この腸管のつなぎ目がうまく連続しない場合を縫合不全と呼びます。この場合、腸内容はこのつなぎ目から腸管外に漏れてしまい、腹膜炎を発症します。通常7日前後に数%の確率で発症します。原因は血流不足による腸管の再生が不完全な場合がほとんどです。縫合不全が生じた場合は、禁食期間を延ばし自然治癒を待つか、再手術(緊急)により人工肛門を造設します。いずれの方法を選択するかは担当医に任せていただきます。この場合、人工肛門は通常数ヶ月から1年後に再度入院し手術することで取り除くことが可能です(一時的人工肛門)。
術後腸閉塞
術後の腸管の癒着や麻痺により、腸内容の流れが悪くなる場合があります。吐き気・嘔吐・腹痛・腹満感・食事摂取不能などの症状が出現します。多くは1週間前後の禁食と経鼻チューブで消化液を持続吸引することで改善しますが、癒着が強く改善の見込みのない場合は再手術により癒着の解除が必要となります。
その他
術後出血、術後肺炎、術創感染、肺塞栓症、血栓症などがあります。












